(本)『空の中』・・・作者についての大いなる勘違い(^^ゞ

一ヶ月ほど前だったか、書店で平積みされている本書の表紙に目が留まり思わず手に取った。雲上を右旋回する飛行機のコックピットから前方を見据えたかのような写真。左端にはHUDの高度表示部をイメージしたALTゲージがデザインされていて、そこに示される高度は57,460フィート。
メートルにすると1万7・8千(3で割ってからちょっと引くという暗算の苦手な私が学生時代にあみ出した超どんぶり換算!)で、これは一般的な戦闘機の実用上昇限度並みの高々度である。そして巻かれた帯には『高度二万メートル そこに潜む“秘密”とは?』という意味ありげなコピーが。
さらに裏表紙を見ると、「謎の航空機事故」「メーカー」「自衛隊パイロット」「子供たち」「不思議な生物」等々の言葉が並ぶ。

「うう、これはもう私のシュミど真ん中の内容ではないかっ!」

作者の有川浩という名前は初見だったが、パラパラっとページをめくると航空機メーカーの記述などもそれなりに書かれていたので、そんなに期待しつつ読んでみることにした。

【ネタバレあり】
結論から言うと、うん、これはかなりおもしろい!
まずストーリーの核となるUMA・・・未確認生物の設定が興味深い。よくこんなアイデアが出るものだ。ネタバレしてしまうと、太古より存在するこの超巨大な生命体が自分以外の生物との接触を嫌って落ち着いた場所が高度二万の“空の中”だった・・・。これ、かなり突飛なアイデアだが、その昔水中にあったこの生物がある方法で巨大化して空に上がるまでの進化の過程もきちんと(それっぽく)書かれているので、フィクションなりに説得力があるのだ。

ところが人類の目覚ましい技術の発展は航空機をこの高さまで押し上げるようになり、そして悲劇が起こる。四国沖L空域で相次いだ二件の航空機事故。事故機は目的は違えど試験のため高度二万を目指して上昇中だった国産旅客機スワローテイルと空自飛実団(岐阜)所属のF15イーグルで、どちらも謎の空中爆発を起こしてしまう。
F15の事故では編隊僚機が生還。パイロットの武田三尉が直前に「何か」を察知し回避行動を取ったためだが、彼女(女性イーグルドライバー!)の報告を基地上層部は全く信用しない。

言うまでもなく事故原因は生命体との衝突。「何かがいた」という武田の報告が当初信用されないのは、まあこの手の話のお約束ではある。で、そこをおもしろくするのが同じ頃全く別のところで始まるもうひとつのストーリー。高知の高校生が海辺で見つけた奇妙な生き物が、携帯電話を介してコンタクトを取ってくるのだ。

読み始めた時はもっと固いSFかと思ったがそうでもなく、高校生や大人たちのなんともじれったい恋愛描写なども生き生きと描かれるので長編ながら飽きることはない。「フェイク」と名付けられる前述の拾われた生物など、普通のペットとは違い目も鼻も耳も脚も肉球もしっぽもないのに、かわいくていじらしいったらありゃしない。
航空機の描写に多少の“甘さ”を感じなくもないが、例えば鳴海章ばりの精密なコックピット描写などは本作では必要ないだろう。航空に関する部分は単にきっかけであり背景であり土台であるに過ぎない。それよりも人類の滅亡さえ匂わせた流れを立場の異なる主要キャラたちがいかに修正していくのかが本筋なのだ。
・・・まあ中盤で【白鯨】と名付けられた生命体と人間との日本語による交渉のくだりは、もう少しまとめてもらえるとありがたいかもしれない(笑)

現実の航空業界についての下調べもきちんとされているようで、これは作者に対して好感が持てた。もっとも航空機メーカーの社名を架空のものにする必要性は疑問だが、三菱を三津菱、川崎を川嵜、重工(HI)でない新明和や日本飛行機をSHINHIと表記するなど、作者の一工夫がある意味おもしろくもあった。

現実といえば、ちょうどこの本を読み終えた時期に起きたふたつの出来事。
まず11日の山口沖でのF15墜落事故。もしかして高々度で「何か」にぶつかったんじゃないだろうか。脱出して助かったパイロットのニ尉はその「何か」を目撃してるのでは!?
そして14日。高知沖の国籍不明潜水艦による領海侵犯事件。国際法を犯してまで侵入してきたのは、ひょっとして11日に空から落下した「何か」を回収するためだったのではないか。海自の駆逐艦護衛艦、哨戒機、対潜ヘリに追われるなか、某国潜水艦が必死で持ち帰りたかったものとは!?

       ・・・・・な~んてねっ(^^ゞ

それにしてもフィクションにおける女性のイーグルドライバー(F15のパイロットのこと)ってみんなカッコイイねえ。本作の武田光稀(みき)三尉しかり、「千里眼」の岬美由紀元二尉しかり、最近では「レディイーグル」の霧谷鷹子二佐しかり。小説でもコミックでも、女の戦闘機乗りは絵になるようだ。(余談だが米軍には女性の戦闘機パイロットが普通に存在する。戦闘機F16を使用する空軍のアクロチーム、サンダーバーズの今シーズンの5番機パイロットは女性である。6機編成チームの場合5番機といえば花形のリードソロ!)

あー、女性の話で肝心なことをひとつ書き忘れてた。記事タイトルの“勘違い”とは、ずばり作者の性別である。「ありかわひろし」さんだと思ったまま読み始めた私は、たまたま見たNHKの「トップランナー」に登場したご本人の姿に目が点・・・・。「ありかわひろ」さんは彼ではなく彼女・・・そう、女性でした!有川先生ゴメンナサイ!
(ご本人も番組の中でこのことに触れてましたネ)

空の中 (角川文庫 あ 48-1)
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有川 浩

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この記事へのコメント

2009年01月15日 09:16
こんにちは~コメントありがとうございました!

有川作品は去年からはまって読みつづけていますが、こちらは一風変わったSFでしたね。若干SFものは苦手ですが、これは飽きることなく楽しめました!

男社会の中で片意地張って頑張っている光稀かっこよかったですね~
SOAR
2009年01月16日 01:19
hitoさん、こんばんは♪
有川さんが「ベタ甘」が売りのライトノベル作家であることを全く知らないまま“表紙買い”に近い状態で手にした作品なんですが、いやあおもしろかったです!

実際の女性パイロット(や女性自衛官)の方たちはもっと自然に男社会に溶け込んでいるはずですが、光稀のキャラに違和感は特に感じません。このあたりも有川さんのウマさなんでしょうね。
2010年08月22日 14:24
こんにちは!
コメント&TBありがとうございました!

『海の底』を読んでからこちらを読んだのですが面白かったです!
ちなみに『クジラの彼』も読み終えちゃいました(^^)

私も有川浩さんは「ありかわひろし」さん(男性)だと思っていました。というか思っちゃいますよね。
まだ2冊しか読んでいませんが、やっぱり女性だ!と読んでいて思いました(笑)
SOAR
2010年08月23日 22:19
みゆみゆさん、こんばんは♪
ではお次は「塩の街」ですね。これは今の有川さんと比べると少々稚拙な印象を受けますが、クライマックスのあるシーンで鳥肌立ちましたよ私。

以前テレビでやってましたが、有川さん、自衛隊への取材もかなりやってるみたいです。でなきゃ書けないよねぇ。さすがだなあ。

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