『誰も守ってくれない』・・・救いのない中から見えてくる希望

事件の被害者ではなく加害者側、すなわち容疑者の家族を警察が守る場合があるという。警察は公に認めていないそうだが、その是非はともかくとしてこういう対応はあって当然な気がする。

本作はある容疑者の妹沙織(志田未来)と、彼女を守ることになった刑事勝浦(佐藤浩市)の、マスコミやネット掲示板の悪質な書き込みに追い詰められながらの逃避行をセミドキュメンタリータッチで描く社会派ヒューマンドラマで、ありがちな感動物にまとめてないところに大いに惹かれた。これは傑作だ。

容疑者の逮捕と同時に家族保護の態勢をとる警察だったが、皮肉にも家宅捜索の最中に悲劇が起こる。その後もストーリーは「守ってくれない」「守ってもらえない」「守れない」といった状況に終始する。ボーイフレンドに最悪の仕打ちを受ける沙織、悪質な嫌がらせを受ける勝浦の家族、息子のイジメ問題を抱える記者の梅本(佐々木蔵之介)、過去のある事件の被害者であるペンションオーナーの圭介(柳葉敏郎)と妻久美子(石田ゆり子)・・・。
守ってもらえない現状にあったり、あるいは過去に守ってもらえなかった登場人物たち。彼らが持つ心の傷、そしてそれゆえの“トゲ”と”毒”がなんとも痛々しい。もっと希望に満ち溢れたエンディングに昇りつめていくようなストーリーを予想していたが、基本的に誰一人救われるわけではないのだ。
ただ、そういう救いのない中でそれぞれに少しずつ少しだけ希望の光が射すようなラストの描写は素晴らしいと思った。救いはないがけっして絶望ではないんだというそんなさじ加減の巧みさ。モントリオールでの最優秀脚本賞受賞も納得である。

勝浦が娘のために買い求めたプレゼントの包みが序盤からラストにかけて小道具として実に効果的に使われていて、これがまた非常に上手い。ネタバレ配慮ということで詳細は避けるが、沙織がこの包みを手に取ってのラストシーンは救いのない物語に最高の観後感を与えてくれた。

『誰も守ってくれない』・・・このなんとも突き放した響きを持つタイトルの印象が、私は鑑賞の前後で大きく変わった。守ってくれないこと、守ってもらえないこと。それは結局どういうことなのか。そもそも守るとは何なのか。そのあたりをぜひ多くの方に劇場で感じてほしいと思う。

★『誰も守ってくれない』公式サイトはこちらから

★刑事たちが蹴散らした鉢植えに思うこと・・・レビュー番外編はこちらから

 過去記事にこんな石田ゆり子ネタがありました~(笑)

1/25 0:02 追記
フジテレビのドラマ『誰も守れない』を見た。
なるほど、勝浦と三島(松田龍平)の絆はここにあったのか。そして令子(木村佳乃)と勝浦はこうして出会ったのか。
ドラマのエンディングと映画のオープニングが見事につながっていて、特に前述の“プレゼント”に関する憎い演出に思わずニヤリ。
私は映画・ドラマの順だったがこれはどちらが先でも楽しめそうだ。

この記事へのコメント

2009年01月24日 21:15
あのプレゼントは小道具として実に効果的でしたよね。
あれがあるからこそ勝浦が娘と沙織を重ねて見てしまうという演出も見事でした。
私たちが知らないところでこんな悲しいことが起こっている現状は本当に淋しいですよ。
SOAR
2009年01月25日 00:18
にゃむばななさん、こんばんは♪
勝浦が沙織と自分の娘を重ねてしまうことに沙織が嫉妬した結果、信じられないことをしてしまいますよね。
その沙織がラストであのプレゼントを手に勝浦と向かい合う場面、よかったです。
(どうもlivedoorさんへのTBが不調です。またあとで試してみます)
2009年01月25日 08:34
なんかTVの方が良くできてたと思いませんか。
映画は、マスコミの取材攻勢のすごさと、ネットの速さと、えぐい暴き方がメインになってましたが、なんか電車男がちらついて。。。
あすこは韓国かあ!と思ってしまいましたが、ほんとにあんな感じなんでしょうかね。
なんだか見てて、ものすごく気分が悪くなってきました。
希望が見えたのはいいのですが、生易しい道じゃないですよね。「手紙」も頭をよぎりながら見てました。
でも、二つ通して龍平のカッコよさにガツンでした。
あのそげ方!ちょっといたずらっ子っぽい振る舞い。うまかった。カンドーしました。
2009年01月25日 10:30
こんにちは。

いろいろと考えさせられる内容でしたね。

被害者家族からしてみれば、やはり犯人には重い罪を!
と思うでしょう・・・
今作は加害者家族視点で描かれていたので、
その点は非常に興味深く鑑賞することが出来ました。
2009年01月25日 16:53
私も、仕事がひと段落着いたら観に行きたいです!「浩市さんLOVE」ですからね~。
金曜日、徹子の部屋のゲストが浩市さんだったのですが、この映画の話をしていて、徹子さんが鼻をすすっていたのが印象的でした。
SOAR
2009年01月25日 17:04
sakuraiさん、こんにちは♪
しょせん映画の宣伝のための取ってつけたような話だろうと思っていたら、いや~よかったですドラマ。いわゆるスピンオフではないところがポイントですね。

映画では、ふらっと現れてケータイ構えて、またふらっと帰って行く連中が気味悪かったです。“こっそり忍び込んで盗撮して走って逃げる”のが普通だろうに・・・。
松田龍平、最高です!ニヒルにしてフラット、冷めてるくせに熱く、ひねてるようで優しさをじんわりとにじませる・・・。往年のお父さんにかぶります。涙出そう。
SOAR
2009年01月25日 17:04
BROOKさん、こんにちは♪
犯人には極刑を、その家族にも社会的制裁を。悲惨なニュースを見るたび聞くたびに私たちは自然とそう思います。未成年者の罪は親が償えと考えます。でもこれって無意識のうちに自分が被害者の側に立ってるんですよね。
もし自分の子供や親や親類が凶悪な犯罪を犯したらどうだろう。加害者の家族となったら・・・。そのあたりをじっくり考えさせてくれる作品でしたね。
「なんでこんな目に会わなきゃいけないの!?悪いのはお兄ちゃんなのに!」
沙織の叫びが胸に刺さりました。
SOAR
2009年01月25日 17:19
ちゅうさん、こんにちは♪
浩市ファンなら見逃せない一本だと思いますよ、これは。本作では圧倒的な存在感を見せつけてくれます!
既に公開中の『感染列島』に来月の『少年メリケンサック』と、邦画界は今、浩市ラッシュですよ~!
ちゅうさんもぜひ劇場で!
2009年01月26日 16:40
こんにちは♪
ご訪問が遅れてスミマセン。
私も映画→ドラマでした。
映画で「?」と思っていた部分がドラマで解明されて、それはそれで面白かったです。
ドラマの最後の部分はかなり映画と被っていましたね~。
あと、興味深かったのは事件直後の対応が被害者家族と加害者家族では違っていたことです。
2009年01月26日 22:58
こんばんは。
TBありがとうございます。
いろいろと考えさせられる事の多かった映画でした。
報道は規制があるけど、インターネットは無法地帯。
そのネット上での遣り取りは見ていて気分が悪くなるものでした。
短期間で心身ともに打ちのめされた沙織が勝浦の一言を受けて、今後どのように立ち上がっていくのか続きが気になってしまいました。
SOAR
2009年01月27日 19:35
ミチさん、こんばんは♪
ドラマを先に見たほうがわかりやすいですが、制作は映画が先ですので(俳優たちはドラマ編のことを知らないまま映画の撮影を終えてるとのこと)、そう思いながらドラマを見るのもまた楽しかったです。
冷蔵庫の「禁酒」の貼り紙、勝浦が娘にプレゼントを買う理由、三島が「シャブヅケ」を連発する理由等々、おもしろかった~。

離婚・結婚・子の入籍っていう手続き、すごかったですね。唖然としてしまいました。あれは取材に基づく再現なのか、それともあくまでフィクションなのか・・・。
対照的に描かれたドラマのあのシーンとの違いが興味深かったですね。
SOAR
2009年01月27日 19:35
FREE TIMEさん、こんばんは♪
沙織のこれから、気になりますね。例えどれだけ心の傷が癒えようとも、亡くした母は帰らないし、殺人犯の妹というレッテルも消えることはありません。
父や兄との関係も今までと同じというわけにはいかないでしょう。彼女にこれ以上の悲しい出来事が起こらないよう祈るばかりです。
2009年01月27日 23:34
俺はドラマ→映画。
松田龍平の最初の「シャブ漬けにしてやってください」の台詞に思わず笑ってしまった不謹慎男のkossyです。
冷蔵庫の「禁酒」の張り紙にも・・・
SOAR
2009年01月29日 01:16
kossyさん、こんばんは♪
映画で彼がしつこく「シャブ漬け」って言うのが気になったんですよ。家に帰ってドラマ見たらあんな目に会わされてたんですねえ。
ここはドラマを先に見たほうが面白いかもしれませんね。
2009年02月01日 09:33
コメントありがとうございます。
きっと「踊る大捜査線」他刑事ドラマの脚本を長年書くなかでこういうテーマに突き当たったんでしょうね。一朝一夕ではつくれない映画だと思いました。
SOAR
2009年02月01日 23:11
ジョーさん、こんばんは♪
こちらこそいつもお世話になってます。

「踊る~」で描けないこともなかったんでしょうが、やはりシリーズではなく1本の作品としてやりたかったようですね、君塚監督。
2009年02月01日 23:52
こんばんは
TB&コメント、ありがとうございました
この映画には今の日本社会が抱える大きな問題が
明確に描かれていましたよね
ただ私にとっては
人間の嫌な部分を散々見せ付けられたような気がして
ドキュメンタリー的な手法であっても
もう少し人間のあるべき姿を表現して欲しかったところです
特にネットで卑劣なサイトを立ち上げているヤツらには
厳罰を下して人を傷つけたという自覚を持たせて
改心する所まで観たかったかも…
ヤジうまが集まってきたり、写真を撮りまくったりと、
やったモン勝ち的な部分も見受けられたので、
私個人的には、そこで終わらせて欲しくはなかったです
決して悪い作品ではなかったんですけどね…
SOAR
2009年02月02日 19:52
テクテクさん、こんばんは♪
人間ドラマにしては嫌な部分が大半を占めるんですよね。嫌がらせ、裏切り・・・。
ストーリー的に善の人も悪の人も嫌な部分をばんばん出しといて、最後の最後にちょっとだけそれぞれに希望や安堵を与えるという作風は意図的なんだと思います。
ただそれが観客に不快感を与えてしまうことも考慮してほしかった気がしなくもないです。

仮に・・・ほんとに仮にですが、もし「踊る~」でやってたら、勧善懲悪をはっきりさせた人間味のある内容になったかもしれませんね!
2009年02月04日 07:16
お邪魔します。
ラストのプレゼントのシーン、良かったですね!
勝浦は、沙織を守ってあげられたのだろうか・・・
SOAR
2009年02月04日 23:56
はっちさん、こんばんは♪
なにかこう無彩色的な作品の中であのプレゼントの真っ赤なリボンがすごく印象的でした。
ドラマのほうでプレゼントを買うに至るエピソードも描かれていたので、映画を先に観てあのプレゼントを気に留めていた私としてはちょっとうれしかったかも。

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