『ゴールデンスランバー』・・・「信じてるんじゃない、知ってるんだ!」

逃げること、生きること。
冒頭で旧友の森田(吉岡秀隆)からこの二つを言い聞かされ、青柳(堺雅人)の逃走が始まる。前置きにさして時間は割かれず、明かしてしまえばラストも実にシンプルだ。しかし最初から最後までこれでもかと張り巡らされる伏線が、前後しながら絶妙なリズム・テンポで解かれていく感覚がとにかく気持ちいい。

例えば青柳が2年前にある事件で関わったアイドル凛香(貫地谷しほり)。予告で知っていた本筋に対しこの子の存在に何の意味があるんだかと思っていると、彼女がちらりと語っていた一言がかなり重要な展開を見せることになるのだ。終盤、車の中での彼女とマネージャーのセリフなどでき過ぎていて見事である。
そして彼女が秘めるある疑惑が最初に提示されたエレベーターのシーンにつながり、それをダメ押しで最後の最後にもう一度持ってくるという監督のセンス。
そういうことか。エレベーターの帽子男はそういうことか。
さらにこのラストでは駆け寄った一人の少女がある行動を取るのだが・・・このあたりはもうため息モノであった。

前述した森田の“逃げろ生きろ”の言葉も、中盤に病院内で入院患者(柄本明)からもう一度言われる。それは言いっぱなしとはならず実にユニークな手助けを受けることになり、そのまま青柳たちの学生時代の花火打ち上げアルバイトの思い出へとリンクしていく。ベンガル演じる花火職人も回想シーンだけかと思いきや、最後に現在の時系列でも登場。回想で憂いていた問題がちゃんと解決している上、刑事を前に言い放つ一言がまた最高だ。

連続殺人容疑で指名手配中の少年や電話でのみ登場する整形外科医、またバイクでツーリング中の親子などとの関わりも含め、雑然とちりばめられたキャラクターたちの一言一言が巧みにつながり合っていく様は本当に見事としか言いようがない。

伊東四朗もイイ。彼演じる父親が報道陣の「息子さんを信じたいお気持ちはわかるが・・・」という問いに対して、「信じてるんじゃない、知ってるんだ!」と切り返す。息子の無実を確信する父親の熱い言葉だ。
以前にも書いたが彼がこれまでに演じてきた父親役や刑事役が私は大好きで、本作でも彼らしい父親像を見せてくれた。やっぱイイなあ伊東四朗。

逃げる青柳に次々と接触してくるかつてのサークル仲間や先輩社員のさり気ない言葉がまたいい。容疑者に仕立て上げられそれがテレビで報道される中で、彼らは青柳の犯行などとはこれっぽっちも思ってないのだ。
「で、お前じゃないんだろ?」と笑顔で接する先輩といい、ある場所で書き残した「おれは犯人じゃない」というメモに元カノ晴子(竹内結子)が書き足す「だと思った」の一言といい、父親同様仲間たちも彼が犯人じゃないことなどわかりきっていると言わんばかりのそっけなさ。けっして状況説明口調ではない単純で短い言葉が実にリアルでよかった。原作でもそっけないのに熱く心強い言葉たちがこうして飛び交っているのだろうか。だとしたら読まないわけにはいかないね。

まずイイトコをざっと書いたが、一方で中だるみというか退屈に思えてしまうパートも正直あった。息もつかせず一気に見せるシーンと、ふっと緊張を緩ますようなシーン。両者のバランスがいまひとつだったような。眠気に至るほどではなかったものの、早く次次~!とスピーディな展開を促したくなることもしばしばで、逃亡劇というスタイルに139分という長尺を考えると一工夫がほしかったところではある。

あえてツッコミどころも挙げてしまうと、まずiPodに刺さった●●の角度は不自然だ。また、朽ち果てたクルマはバッテリー換えただけじゃダメだろう。プラグ、キャブ(だよねあの年式は)、オイル、ガソリン、タイヤの空気圧・・・。錆びたり腐ったりヘタったりしてたはず。
そうそう、赤いイヤマフのショットガン刑事(永島敏行)。彼の役どころは指揮系統からはみ出した狂気の警官って感じだと思うのだが、どうもそういう怖さが感じ切れなかった。あのニヤリは怖いんだけどちょっと違うかなみたいな。
それにしてもぶん殴られた竹内結子はカワイソウだった~。回想シーンで大学生時代を演じる彼女があんまりかわいいのでフラフラと惚れかけてたのだ(笑)

まあそれでもとにかく。本作が非常に面白い作品であることに変わりはない。張られた伏線が絡み解かれを繰り返す楽しさを存分に堪能した。オススメ!

この記事へのコメント

2010年01月30日 19:40
こんばんは。

シリアスとユーモアをミックスさせたような作品でしたね。
シリアス部分は緊迫していて、ユーモア部分はクスリと笑えるような感じでした。

伊東さん演じる父親、素敵だったと思います。
息子のことをあそこまで信じるのが“親”なんでしょうね。
SOAR
2010年01月30日 20:17
BROOKさん、こんばんは♪
そうですね!私は記事に盛り込み損ねましたが、ちらりちらりと見え隠れするユーモアのさじ加減も絶妙でした。映画の楽しさ要素あれこれをうまくミックスして持ち合わせているような作品になっていたと思います。

あの手の役を演じる伊東四朗、私大好きなんです~!仏頂面で口下手で、でもがつんとかっこいいことを言っちゃうのね。よかった~。
2010年01月30日 21:24
>「信じてるんじゃない、知ってるんだ!」
これはいいセリフでしたよね。
だからこそラストでの「痴漢は~」の書初めには泣かされましたよ。
そして「ダンナさん、キャバ嬢と浮気してましたよ」という告げ口にも。
2010年01月30日 22:37
>原作でもそっけないのに熱く心強い言葉たちがこうして飛び交っているのだろうか
その通り!流石SOARさん、鋭いです。本当に、重要でいつまでも心に残る台詞ほど、拍子抜けするくらいにそっけなく伝えられる。それが伊坂作品の魅力の1つです。

それから。もし、伊坂を読まれるなら、確かにこの作品は本当に面白いからおススメなのですけど、
できるなら、なるべく多くの既刊作品を、刊行順に何冊か読まれてからのほうが、この作品だけを読むよりももっといいのじゃないかと…
というのも、この小説の刊行時、「現時点での集大成」と帯に謳われた通り、過去の作品の流れや傾向が凝縮されたように感じたからです。
特にこの作品に繋がる感じが強く、映画化されていない『グラスホッパー』『砂漠』『魔王』などがいいかもしれません。

ツッコミどころもあるにはあるけれど、(車はわたしでもそう思います)
本当に面白い映画になったことがとても嬉しかったです。
SOAR
2010年01月31日 17:17
にゃむばななさん、こんにちは♪
この場面で書初めの話もするんですよね、伊東四朗。「痴漢は~」は言ってみれば親子の信頼の証のような一言でもあり、それをラストへ持ってくる。そして浮気の告げ口もちゃんと伏線が張ってあったわけで、いやはやもうこの巧みな展開に参りましたって感じです。
SOAR
2010年01月31日 17:19
悠雅さん、こんにちは♪
なるほど~、そっけない言葉が伊坂作品のポイントなんですね。推薦作品もいろいろ教えていただきありがとうございます。順々に読んでみますね。

ツッコミはもちろん私の記事上のネタであって、作品を否定するつもりは全然ありません。
ここで彼女が考えたのは、バッテリーを換える→電気系統が復活する→セルが回ってエンジンが掛かる、という流れなんですよね。
彼女のこの発想の根拠は学生時代の“ホテル代わり”のくだりでちゃんと描かれているので、話の展開としてはこれが正解だと思います。私が挙げたような整備作業をしてたら話がおかしくなっちゃいますもんね。
2010年01月31日 21:03
こんばんは!
伏線を張っておいて、後で繋がる・・・というのがかなりハマリました~。
「痴漢~」が一番心に残る言葉になるとは思いませんでしたが、痴漢~だけでなく、いろいろなところに散りばめられた言葉がよかったです。
私も原作はずっと気になっていたのですが、読んでいなかったので、読んでみようと思います。
SOAR
2010年02月01日 01:03
みゆみゆさん、こんばんは♪
伏線の張り方と回収の仕方が実に気持ちいい作品でした。笑いを取った言葉が次に出てくるときはしっかり泣かせてくれるような面白さがありましたね。
私も原作読んでみたくなりました。とりあえず文庫化してくれ~(笑)
2010年02月08日 11:44
こういう話題作は、どっちにしろ読むんで、さっさと読んでしまいました。
あの女の子にはごめん!ですが、図書館と言う強い味方がいるんで。
伊坂作品は全部、図書館だわ。

さて、映画。長い本の、描くのに大変な部分はざっくり切って、逃走劇と、友情物語に絞ったのはよかったと思うのですが、SOARさんが感じたように、それにしちゃ、途中の中だるみが全体のテンポをスムーズにしてなかったような気がしましたね。
絶対に、細かいディティールを大事にする人なんで、あの車はちょっと??と感じましたわ。
ま、中村監督には、ぜひオリジナルで一本撮ってもらって、それで彼の評価をしたいと考えてます。
SOAR
2010年02月09日 19:53
sakuraiさん、こんばんは♪
何がなんだかわからないままに主人公がとりあえず逃げ出す話ですから、もっとテンポよく進んだほうがおもしろいのにって思ったんですよね。
例えるなら踏み続けてたアクセルを時々緩めちゃうような感覚がありました。ただしそういうパートにも無駄な描写は一切ないので、これは中村監督の“味”なんでしょうかね。
あの車が絡むエピソードはどれもすごくいいので水を差したくはないんですが、思い出のおんぼろカーが走り出すというファンタジーになっちゃったよなあ(笑)

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