『アントキノイノチ』・・・“あのときの生命”を忘れずに生きよう

人はなぜ生きるのか。生きようとするのか。あるいはなぜ自ら死のうとするのか、他人を殺そうとするのか。

高校時代に親友を“殺した”青年と、同じ頃に“殺された”ことがあると語る少女。遺品整理業という特殊な職業に身を置く二人の心の揺らぎを通して「生命(いのち)」の意味を問う、ずしりと重みのある物語だった。
さだまさしの原作を一ヶ月ほど前に読み終えての鑑賞。

新たな仕事に就き、病んだ心も徐々に回復しつつある杏平に対し、深く刻まれた心の傷が癒えることのないゆき。前向きな発想の杏平と違い、ゆきにとって過去は手首に残る傷跡と同様、一生消えることがないのだ。

そんなゆきの閉ざされた心を救おうと懸命になる杏平の姿が優しく温かい。海岸で彼が“あのときの生命”の大切さを説くシーンはよかった。ずっと背負ってきた荷物をとりあえずひとつ降ろせたかのようなゆきの表情と、それを見守る杏平の笑顔。そして“アントキノイノチ”から“プロレスの人”を連想した二人が叫ぶ「元気ですか~!」

と、できればここで温かく終わって欲しかった・・・。

“生命”の重さに押し潰されそうな人生を送ってきた若い二人が、仕事を通して様々な人生に触れながら自分を見つめなおし、ようやく未来を生きようと決意したところでこの悲劇。もちろんドラマの展開としてこのパターンはありなのだが、本作の場合これやっちゃうと原作者の意図した“感動”と大きくズレてしまうのではないだろうか。

そもそもゆきの大幅な設定変更は私にはどうもしっくり来ないのだ。杏平、松井、ゆき。三人の意外な接点が重く描かれる原作はそれだけにラストの解放感が非常に爽やかで、ポジティブな後味が実に心地よい読後感を誘うのだが・・・。

また、杏平の松井に対する憎悪がじわじわと殺意に変化していく様子も、原作ほどに伝わってこなかった。山木のエピを少し軽く描きすぎたせいかもしれない。

家を捨て男と出て行った母をずっと憎んでいた檀れい演じる女性が、母の遺品の中から見つかった毎年の誕生日ごとに自分に宛てた(でも出せなかった)手紙の束を見て泣き崩れるシーンが印象に残る。原作では杏平に大きな影響を与えるクライマックスともいえるこのエピソード、これももう少しじっくり見せてほしかったな。


毎回なるべく避けようと思いつつどうしても語りたくなってしまうのが原作との比較。良い原作はなるべくそのままに映像化してほしいというのは叶わぬ願いなのかなあ。『阪急電車』『告白』など、けっこうアレンジを加えながらも原作の本質を見失ってない素晴らしい作品も多々あるのだが・・・。


そんなわけで必ずしも満足のいく作品ではなかったが、生命の尊さを日常と違った視点であらためて考え直すいい機会となったのは間違いない。
“無縁”、“孤独”などという寂しい言葉で人の生き死にが語られる時代である。
遺品整理業とは、ただ単に片付け屋さんではなく、誰にも看取られないまま終わりを告げたそんな生命たちにそっと手を差し伸べるような仕事でもあるんだね。

人生を振り返るとどんな人にもそこには様々な生命の痕跡があるだろう。失った生命も、失われなかった生命も、みんな今の自分につながっているのだ。それを忘れずに明日を未来を生きよう。

この記事へのコメント

にゃむばなな
2011年11月28日 09:20
個人的に最後の悲劇は蛇足だと思いました。
この主人公たちのように苦しんでいる人はたくさんいるのですから、何も心が救われた後にすぐ命を落とさなくても。
こういう安易な展開に持っていくのは好きになれませんわ。
SOAR
2011年12月04日 17:40
にゃむばななさん、こんばんは♪
まったくもっておっしゃるとおり。今年観た作品中一番の蛇足ですよコレ。
苦しさを乗り越えて生きようというテーマが見えたとたんにナンダコレハ???

原作ラストは素晴らしいんです。映画の風評被害が原作に及ばないことを祈るしかありません。
原作に手を加えるのは大いに結構ですが、生き死にを扱う作品でその根本をいじってしまうのはいかがなものでしょうかね。

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