『はやぶさ 遥かなる帰還』・・・順繰り

M-Vロケットに搭載され打ち上げを待つはやぶさ内部をボアスコープが巡るオープニング。最初にアップになる電子基盤上の小さな部品こそが、後にイオンエンジン全停止というプロジェクト最大の危機を救うことになるクロス運転回路のダイオードだ。次いでボアスコープはX軸のリアクションホイールも映し出す。
宇宙に飛び立つはやぶさがこの先体験する様々な出来事にかかわってくるこうした部品たちを最初に見せるアイデアにまず惹かれた。

本編のほうは意外とあっさりな印象を持った。JAXAやメーカー技術者たちの熱い思いがどこか空回りしていて、期待したほど伝わって来なかったのだ。こうした現場の淡々とした雰囲気こそがリアルなエンジニア像と言えるのかもしれないし、一人一人の真剣なまなざしからは内に秘める心意気が読み取れないわけではない。実際に個々の役者さんたちは皆いい演技をしているのだ。ただ、実話ベースとはいえドキュメンタリーではないのだから、言動・行動どちらにもオーバーアクションはほしい気がする。

そんな中で唯一感情的な性格を見せるのが茶川・・・じゃなくて(笑)森内。NECのイオンエンジン開発者なのだが、プロジェクトの中にあってひとりよがりというか少々ワガママな思考をする人間で、この人物だけが浮いて見えた。プロジェクトマネージャーである山口教授(モデルはもちろんあの川口淳一郎教授)のことを“尊敬はしているが好きではない”という森内のセリフがあって、これがまたイヤな感じ。その心情はわかるけど、イオンエンジンの想定外運用のアイデアが出されるたびにイジけたりふてくされる理由がそこにあるのだとしたらあまりに子供じみている。コンビであるJAXAの藤中教授のフォローがなければどうなったことやら。

ただ、そんな森内のキャラがJAXAと民間企業の立場の違いをあえておおげさに表現すべく生まれたものだとしたら合点はいく。地球帰還が3年遅れると聞いて宇宙関係の次の仕事がしばらく入らないことを憂う町工場の社長の姿からもわかるように、こうした国家的プロジェクトに利益度外視で参加する民間企業はないだろう。はやぶさプロジェクトを通してイオンエンジンの商品化と売り込みにかけるNECにしてみれば、一か八かの運用に消極的になるのは当然ではある。
はやぶさプロジェクトには百社を超える民間企業が参加していると劇中であったが、小さな町工場から大手の電気・航空関連企業に至るまで、それぞれの思惑は純粋に宇宙への夢や希望や憧れだけにあるわけではないのかもしれない。


昨年10月公開の『はやぶさ/HAYABUSA』を観たときも淡々とした印象を持ったのだが、いざ本作と比較してみるとあちらのほうが感情に訴えてくるものは大きかったと思う。描かれるトラブルは同じものばかりなのに、本作よりもスタッフたちの落胆や苦悩や安堵や喜びといった心情変化が断然わかりやすかった。臼田のスタッフが地道かつ懸命に迷子のはやぶさを探すシーンを比較してみてもそれは明らかで、やはりはやぶさを“はやぶさ君”と擬人化したことでエンジニアたちとはやぶさとのやりとりが感覚的に伝わったのだろう。
というわけで競作となっている「はやぶさ」映画、まずは第一弾の『はやぶさ/HAYABUSA』に一票!


もちろん本作にもいいところはたくさんある。『はやぶさ/HAYABUSA』に比べ、圧倒的に勝っているのがCG。実物大模型の質感を取り込みながら作ったというCGは文句なしに素晴らしい。太陽電池パネル展開の様子、イオンエンジンやスラスターの動き、ターゲットマーカーの質感・・・。燃料漏洩という深刻なトラブルのシーンなど、不謹慎ではあるが拡散する燃料の描写に美しささえ感じるほどであった。
圧巻は地球帰還のシーン。大気との摩擦で燃え尽きる本体の最期は胸に迫るものがあった。そんなはやぶさ本体にとって、一筋の光となってオーストラリアの大地を目指すカプセルは希望の輝きだ。大気圏突入前に切り離したカプセルを生還させる代わりに自分は流れ星となって散ったはやぶさ。あの日、ニュースを見たとき以来このシチュエーションを思うだけで泣けてくる私。

町工場の社長の「順繰りだよ」のセリフも深い。
はやぶさの最期を見届けた者はそれを次の世代に伝えなければならないのだと彼は言う。朝日新聞記者である彼の娘はオーストラリア現地で“遥かなる帰還”の瞬間に立ち会った。彼女の目から溢れた涙の意味は、宇宙や物作りに興味を持ち始めた彼女の息子に確実に伝わっていく。

自分をリレーのアンカー例えたカプセル担当エンジニアがいた。前走者からバトンが渡されなければ、すなわちはやぶさが地球に還ってこなければ出番はないのだと彼はぼやく。ここにも順繰りがある。設計した者、作った者、打ち上げた者、着陸させた者、軌道計算した者・・・。それぞれの成功があって最終走者にバトンは渡る。そして若いエンジニアたちが新たに参加するであろう「はやぶさ2プロジェクト」も既に始動した。2014年にイトカワ以外の小惑星を目指して打ち上がる。

次世代への順繰りがあるからこそ物事は未来に向けて継承されていく。壮大な宇宙開発プロジェクトだろうと下町の小さな工場の物作りだろうと、そのことになんら変わりはない。


この記事へのコメント

2012年02月12日 10:03
20世紀FOX版は未見で、本作が初めての“はやぶさ”映画となりました。

淡々と描かれつつも、その中に様々な人間ドラマが入っていて、
そして、はやぶさ帰還のために労力を惜しまない…
それぞれの“思い”みたいなのが良かったと思います。
この辺りは演技派俳優陣の為せる業かもしれません。

たしかにCGのクオリティは素晴らしかったです。
まるで実際の映像のようでした。
SOAR
2012年02月12日 18:22
BROOKさん、こんにちは♪
三作の競演が話題の「はやぶさ」ですが、本作ははやぶさとJAXAの技術者たちの他に、メーカー技術者と町工場の人間を加えてのドラマが秀逸でしたね。
大きなプロジェクトを支える民間の苦労を描いたことは価値がありますよ。

そうそう。CG、美しかった~!
2012年02月16日 02:10
こんにちは
最後のシーンは胸にぐっときました
どのはやぶさ映画をみても思うのは、
成功したからこそ注目されたということです
お金だけじゃない、という町工場のお父さんの言葉も胸にあり、同じく、所長がいうように失敗というものはない(次につながるんだということ)というのも真理
過程も大事
でも結果も大事で、いままでの過程が報われる最大のご褒美ですよね
それでもここまで浸透したのは成功したからこそですよね
一枚岩ではない人間の心理や想い
それでもはやぶさを帰還させることにおいては、全員が完全に一致していた
立場の違いからぶつかり合うことはあってもひとつの方向に向かう…そこがよく描かれていたと思います
SOAR
2012年02月19日 19:24
おくやぷさん、こんばんは♪
昨年、はやぶさ映画が三本作られると聞いてとにかく期待したのが燃え尽きるはやぶさとその先を一直線に進むカプセルの映像をどう見せてくれるかということでした。
本作でのこのシーン、大気との摩擦でどんどんばらけていくはやぶさ本体の最期はよかった。私ここでも涙出ちゃいましたよ。
宇宙開発に失敗はない。よく聞く言葉ですが、民間企業にとってはそうも言ってられないのが実情で、帰還を願う思いは全関係者共通ながら、法人・メーカー・町工場それぞれの立場の違いというものもさりげなく描いていたと思います。
JAXA内においても、危険な二度目のタッチダウンはやめて帰還させようという意見もあれば、サンプルリターンが目的なんだからタッチダウンが成功しなければ帰ってくる意味がないという意見もあり、立場の違いによる様々な衝突が、とてもリアルだったなと。

とにもかくにも帰ってきたはやぶさ。たいしたものです!
2012年02月20日 14:13
こちらこそ、大変ご無沙汰で申し訳ないです。
お元気そうで何より。
はやぶさもんはあまり触手がのびず、今回が初見だったのですが、それなりにはわかりました。
なんですが、やっぱ違和感を感じたのが、茶川・・もとい、森内さん役の吉岡君でした。
立場が違うのはわかるのですが、究極の選択を迫られたチームの葛藤・・・にしては、感情的すぎたような。
妙なわざとらしさが、鼻についてしまいました。
長島一茂の役柄が重要なのはわかったんですが、描き方がへたくそでしたね。
いろいろあるとは思いますが、彼らの矜持は伝わりました。
Hi
2012年02月23日 19:20
はやぶさの映画だった?
テレビドラマでよかったんじゃない?程度のものに「はやぶさ」って冠つけて映画にした感じだった。
神社のシーンは良かったけど…
はやぶさダシにつかわないで。
SOAR
2012年02月24日 00:04
sakuraiさん、こんばんは♪
遥か遠くのわずか数百メートルの物体に無人探査機を着陸させサンプルを回収し帰還させることのすごさ、これが伝わりにくいと致命的なんですよね。
スタッフたちの現実的でない怒鳴り合いも残念に思いました。
けっきょく実際にはやぶさが帰ってきた日のニュース映像や報道されたエピソードなどで補完しつつの鑑賞でないと、置いてかれる人も多いのかもしれませんね。
ますます興味が遠のいてしまわれたかもしれませんが、それでももし機会があれば『はやぶさ/HAYABUSA』のほうもぜひ!
こっちのほうが断然わかりやすく、また人物ではなく「はやぶさ」そのものへの共感がわくと思いますよ。
SOAR
2012年02月26日 14:29
>Hiさん
宇宙のシーンなどテレビでは表現しきれない大きなスクリーンならではの迫力はあったかな。
神社のシーン、たしかによかったね。

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