『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』・・・逆行する二人の時間が交錯して

第一次世界大戦末期に、ある願いを込めて時計職人が作った逆回転の時計。まるでそれがきっかけであるかのようにベンジャミンの数奇な人生が始まる・・・。

老人の姿でこの世に生まれたベンジャミン(ブラッド・ピット)と、生涯彼を想い続けた女性デイジー(ケイト・ブランシェット)。幼少の頃、テーブルの下にもぐり込んでろうそくに火を灯したあの出逢いの瞬間からふたりの運命の時間は回り始めた。
しかし離れた地でそれぞれの人生を過ごしていた二人は再会の場でなんとなくすれ違ってしまう。ダンサーとして華やかな世界で成功しつつあったデイジーの栄光と挫折が皮肉にも二人を遠ざけることになるのだ。
そんな二人に訪れる一瞬。若返り続けるベンジャミンと年を重ねていくデイジーの逆行する人生がそれぞれの折り返し地点でちょうど交錯する頃、ようやく二人は結ばれる。

    「おたがいやっと追いついた」

若返っていくベンジャミンの淡々と生きる姿勢が胸を打つ。数奇な宿命を背負って生きなければならないこの男はそれなのに悲観の表情をちっとも見せないのだ。育ての母クイニーや豪快な海の男マイク船長、そして福祉施設の老人たちといった優しく温かい面々に囲まれることで自分の呪われた運命を受け入れることができたのだろうか。そしてデイジーを想う気持ちがそれを維持させたのだろうか。

施設から旅立った彼がロシアで出会う人妻エリザベスとの恋と、彼女絡みの一連のエピソードがちょっといい感じで気に入ってしまった。若かりし頃かなわなかったある夢をベンジャミンに語ってくれた彼女が、後に見事その夢を成功させる。それをテレビニュースで知った時のベンジャミンの穏やかな表情がなんとも印象的だった。

老いて病床に就くデイジーに娘キャロラインが、ベンジャミンの綴った自伝を読み聞かせる形で進行する構成もいい。奇抜な設定があるとはいえ一人の男の生涯を延々追っていくだけではどうしても飽きてしまいそう。その点この手法だと適当なタイミングで一息つかせてくれるので、3時間近い上映時間もほとんど苦にならず最後までじっくり楽しむことができた。

時間は本来どんな人にも平等である。誰もが同じ時間の流れの中で生まれ、成長し、恋をし、子を育て、老い、死んでいく。ともに生きる運命の人と一緒に老いていけることに、私たちはもっと喜びを感じなければいけないのかもしれない。
ベンジャミンとデイジーが逆行する時間のすれ違いざま、互いの人生でのその一瞬につかむことのできた愛も尊く美しいが、彼らの場合そこからまた遠ざかっていく運命にあるのも事実。それに対し日常の私たちが並行する時間のどこかで出逢う人は、時間の概念上では決して遠ざかることはないのだから・・・。

歳を取ったデイジーに優しく抱かれ、彼の大好きだったその青い瞳に見守られながら赤ん坊の姿で人生を終えるベンジャミンを見ていて、とりとめもなくそんなことを思った。

 ☆『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』公式サイト

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