『カールじいさんの空飛ぶ家』・・・“冒険はそこにある!”

不機嫌そうなしかめ面の老人とどこか抜けてるマイペースな少年。およそアクション・アドベンチャーのヒーローにはほど遠いこのコンビが、大空でそして伝説の地で繰り広げる大冒険。ピクサー10作目は擬人化した昆虫でも魚でもおもちゃでもクルマでもなく、“人間”二人をどうどうと主役に据えた夢と感動の素敵な物語だった。

まずは前評判の高かった序盤の回想パート。特に結婚からエリーの死まではセリフなしSEなしの音楽のみで見せる。これは秀逸で本編では故人であるエリーの人物像が見事に描かれていた。手法としては8年前の某邦画アニメで同様のすばらしい回想シーンがあるが、これと並ぶ傑作回想シーンとして太鼓判を押したい。

カールとエリー、冒険家マンツに憧れる幼い二人が出会った廃屋。やがて二人はこの家で愛を育みパラダイスの滝への夢を膨らませていたが、年月が過ぎその夢が叶わぬままエリーが先立つ。最愛の妻と少しずつ手を加え家具を揃えてきた大切な家も今では立ち退きを迫られる毎日。そんなある日、思い出の郵便受けを工事関係者に傷付けられたことからトラブルが起きてしまい、これをきっかけにカールはついに決意を固める。エリーとの約束、伝説の滝パラダイス・フォールへ彼女を“家ごと連れていく”ときが来たと。

カールとラッセル少年を空の旅に誘う色鮮やかな風船の描写にまず目が行った。一つ一つの光の当たり方といい透明感といい実に美しい。さらには何万個にもなる風船のそれぞれの動きが、風船と同じ数だけあるはずの糸とともに緻密に計算されているとのことで、色彩、質感、動きとこれぞCG。(なお予告等で家が飛ぶ映像を見たとき、風船の浮力が家の重量に勝っていてもあの吊り方では煙突がもげてしまうだけだろうとイジワルな感想を持ったのだが、太くより合わせた糸は煙突内部を通ってちゃんと家の基礎につながっていたのね。納得)

物語はこの伝説の滝へ到達するまでの冒険譚を描く内容がメインだと思っていたので、冒険家マンツとのまさかの出会いや怪鳥騒動、犬たちとの空中戦など、その後の意外な展開にはちょっとびっくり。
そして謎の巨鳥ケヴィンと仲良くなったラッセルがそのヒナたちを守るために、滝への到達を最優先とするカールから去ってしまうあたりから物語は俄然面白くなってくる。

・・・ただし、私の期待や好みからは少々軌道がズレてしまったとも言える。もっと純粋にエリーとの思い出や約束を追い求めていくカールじいさんの姿が見たかったかなと。道中の出来事はいろいろあっていいのだが、序盤であんなに感動させてくれたエリーとの日々と、そして彼女との約束を胸に冒険に旅立ったカールの思いとが、なんだか派手な活劇であいまいになってしまったように思えるのだがいかがだろう?

話を戻して・・・。ラッセルがいなくなった後でエリーのスケッチブックを眺めていたカールは、エリーの残していたあるメッセージに気付く。これこそが彼女からの真のメッセージなのか。
あくまで家を、エリーの思いをあの滝の上に運ぶことでこの冒険は完結すると考えていたカールに、そのメッセージは新たな決心をさせることになる。しかし、もはや家を浮き上がらせるだけの力を失ってしまった風船。再び空を目指すには・・・。
マンツに捕らわれたラッセルたちを救うため再度飛び上がるカールの家。そのために置き去りにするしかなかった二脚のソファは、新婚の日に並べたあの時と同じように仲良く寄り添う。ここ、さり気ない名場面である。

カールとエリーにとって憧れの人だったマンツは二人を結びつけた存在とも言えるだけに、ケヴィンをめぐって闘うことになってしまうのが切ないというか残念にも思えた。
そもそも結果的に悪役となっているマンツも、かわいそうといえばかわいそうだ。かつて冒険家として注目を浴びていた彼が華やかな表舞台から追放されたのは、パラダイスの地から持ち帰ったこの怪鳥の骨格が認められなかったからで、それを思うとケヴィン捕獲に必死になるマンツの気持ちもよくわかる・・・。

翻訳機をつけた犬たちも最初は怖いがこれがまたおもしろい。「リス」や「ボール遊び」に反応する彼らの様子が繰り返されるごとにおかしくなってくるのだ。観客に初めのうちは「?」と思わせておいて最後には爆笑を誘う仕掛けである。繰り返し見せられた犬たちの条件反射に、いつの間にか我々も条件反射的に笑ってしまう。(しまいには犬が映るだけできゃっきゃと笑っているお子さんが前のほうの席にいて、私もつられて笑いっぱなしだった)

序盤に登場するエリーとカールの思い出の品々を要所要所で再登場させ、作品の雰囲気をより温かいものにしていく演出はさすがピクサー、憎いくらいにすばらしい。青い風船、手形の付いた郵便受け、向かい合って磨いたガラス窓、形の違うシングルソファ・・・。

そしてグレープソーダの王冠バッジ。

エリーと初めて出会った日に彼女からもらったグレープソーダの王冠バッジ・・・エリー・バッジは、冒険を終え無事帰ったラッセルへと受け継がれた。エリー、カール、ラッセル。3人の立派な冒険家をバッジがつなぐ。
ラッセルと犬のダグに囲まれてのカールじいさんの今後もきっと素敵な日々になることだろう。かの地ではケヴィン親子が元気にしているだろうし、そしてあの家もまたエリーの望みどおりに・・・。

幼なじみの絆、色あせぬ夫婦愛、自分の家を守るということ、人生の再出発、老人を敬う心、子供に対する愛情、動物愛護、老いてもなくさない冒険心・・・。

作中にはこうしたメッセージもわかりやすく散りばめられる。子供から大人まで、年齢を問わず何かしら必ず伝わるものがあるのもまたディズニーならではのよさかもしれない。

それにしてもピクサーの観後感はやはりいい。なにより温かい。アメリカでは去る5月公開だが、昨年の『WALL・E/ウォーリー』同様、そして同時上映の短編『晴れときどきくもり』も併せて、寒いこの時季ぴったりの心をポカポカとさせてくれるあったか~い作品である。
(前述のごとく若干期待とは違った展開になったこともあり、私の中では『WALL・E/ウォーリー』を超える作品にはならなかったかな)

 ☆『カールじいさんの空飛ぶ家』公式サイト

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