『第9地区』・・・3年後の約束

コイツは参った。今年のアカデミー賞ノミネートの中にこんな傑作が紛れていたとは!
(ノミネート作品すべてを観ないうちに言うのもなんだが)少なくとも作品賞争いは『アバター』『ハート・ロッカー』の一騎打ちなどではなく、本作『第9地区』を含めた三つ巴の様相を呈していたに違いない。

本作ではまずエイリアンの設定が斬新だ。よくある凶暴な怪物タイプでも友好的なお友だちタイプでもなく妙に人間臭いのである。人間から「エビ」と呼ばれるその容姿こそ異形ではあるが、住む権利を主張したり威圧的な相手に怒ってみせたりと、権力の横暴に対して見せる態度は人間とそう変わらない。考えてみればUFOの出現が南アフリカというのもよくできているではないか。もっともらしい理由をつけ居住地区に線を引いての差別行為はかつてのアパルトヘイトそのものである。

序盤にニュース映像やドキュメンタリー番組を見ているような構成で作品の世界観が説明されていく点もスムーズかつわかりやすい。ここで主人公ヴィカスの人物像が複数の関係者によって語られるのだ。

エイリアンの強制移住を執行する組織MNUの現場責任者に抜擢されたヴィカスが思わぬ事態に巻き込まれていく様子を最初のうちはコミカルに見せるが、ある出来事をきっかけにして彼の置かれる状況にじわじわと悲壮感が漂い始める。ついにMNUから追われる身となってしまった彼はやがてある「エビ」親子と再会する。
この親子との関係もありきたりな友情パターンなどではなく、そこがまたリアル。自分の星に帰るためにコツコツと準備を進めてきた親子とウィルスに感染しているヴィカスとの間にある共通の目的意識が生まれるが、両者の結託は脆弱でそれぞれの私利私欲が優先されるあまり相手を裏切ったり見捨てたりと、これはもうSFというよりよくできた人間ドラマを見るようでもあった。

それだけに最後の戦闘でのヴィカスの行動が涙を誘う。起動したエイリアンの二足歩行メカ(これがカッコイイんだな)に乗り込み父エイリアンを置き去りにしようとした彼が、思い直して引き返してからの傭兵部隊との戦闘は目が離せなかった。大口径の対物ライフルによる直撃弾を受け動きが止まるメカ。その向こうをエビ親子が乗る指令船が母船に向け上昇する。それを許すまいと傭兵部隊のクーバス大佐が発射したRPG弾を、メカの手を伸ばして受け止め阻止するヴィカス・・・。

アパルトヘイトに関して前述したが、とにかく本作は人類対エイリアンという図式を通して(借りて)現実社会の様々な問題を風刺しているようにも見えてくる。隔離政策によるスラム化、武装するギャング団、横行する食料の闇取引・・・。表向きはSFアクションでありながらその奥は相当深く、近年のSFアクションでは文句なしの一級品だと私が確信している『アバター』ですらなんだか軽く思えてしまった。

ヴィカスと親子との間に交わされた約束は3年先まで実現することはない。それでもその歳月をかけて親子は必ず地球に戻ってくるだろう。だが、と私は考える。“変身”の進行がどうであれ、そのときヴィカスにその約束はもう必要ないのかもしれない。指先で起用にあるものを作っている“エイリアン”の切なさを誘うラストシーンと、その前に流れるヴィカスの奥さんの証言シーン。これは例えるなら『アバター』でジェイクが選んだあの結末のような、そんな気もするのだ。

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