『マイ・ブラザー』・・・帰還兵とPTSD

捕虜に対する虐待以上の残酷な仕打ち。アフガン兵から生き残る条件としてある行為を迫られた海兵隊大尉サム(トビー・マグワイア)は、一度は拒否するものの生きて家族の元に帰るためアフガン兵に従ってしまう。

その苦渋の選択のおかげで家族と再会を果たすサムだったが、彼にとって不幸だったのは自分の戦死が誤って家族に伝えられていたことと、刑務所から出所したばかりの弟トミー(ジェイク・ギレンホール)の存在が家族にとって大きな支えとなってしまっていたこと。
夫の戦死を告げられた妻グレース(ナタリー・ポートマン)と娘たちが、それまでギクシャクしていたトミーに急速に心を開いていったのは当然の成り行きだろう。夫を父を亡くした彼女たちの一番近くにいたのがトミーだったのだから。
しかしこのことが一家を悲劇に導いてしまうことになる・・・。

戦場から帰還した兵士たちが負う心の傷、PTSDを癒すために家族の存在は本来なら何よりも必要なはずだ。ところが本作では家族・・・妻と弟にあらぬ疑いを向けてしまったことでサムの心は一気に壊れていく。彼の負った心の傷はあまりにも大きいが、それでも間違った訃報さえ届いてなければグレースとトミーの微妙な関係自体がなかったはずで、ここまでこじれることはなかったのかもしれない。

戦場の兵士を支えているのは家族を思う気持ちだろう。第二次大戦でも、ベトナムでも、湾岸もイラクも、スクリーンに登場する兵士たちは皆、妻や子供の写真をポケットにしのばせ、あるいはコックピットの計器盤に貼り付け、そうやって家族を思う。生きて家族に会いたいから過酷な試練も乗り越える。ところがいざ帰り着いた家の中に自分の居場所がなかったら、少なくともそう感じてしまったらどうなるだろうか。『ハート・ロッカー』のジェームズは自分の居場所を再び戦場に求めてしまった。そして本作のサムは・・・。

先週の『プリンス・オブ・ペルシャ』に続き2週連続でその姿を見ることとなったジェイク・ギレンホール、『スパイダーマン』のイメージが強いトビー・マグワイア、彼女のデビュー作『レオン』が私の生涯ベスト10から漏れることはないだろうナタリー・ポートマン。この三人が実によかった。さらに加えるなら長女役の女の子。彼女の要所要所での表情や動きは完璧で、この子はこの難しい話での自分の役どころを確実に掴んでいたのだろう。帰ってきた父の変化に気付いて動揺したり、トミーをどんどん好きになったり、大人たちから可愛がられる妹に猛烈に嫉妬したり、いやあ巧い子役だった。

それにしても苦笑いするしかないのがまたしても撃墜されるブラックホーク。なんで戦争映画で毎回毎回墜とされちゃうんだよ~。それもミサイルじゃなくていつもRPGだぞ。クルーの「RPG!」という悲鳴にも似た叫びを『グリーン・ゾーン』でも聞いたばかりなのに、本作のヘリクルーもやっぱり叫んでた・・・。

重くて辛くて怖くて悲しくて・・・そんな思いが終始付きまとう中で、サムが妻に抱きしめられカミングアウトするラストシーンにかすかな希望を感じられたのが救いであった。そしてこのシーンへ伏線と言うほどではないが、サムがある時点で書いた手紙をグレースがいつ開封したのか、このタイミングがまた絶妙だったと私は思う。

PTSDに苦しむ帰還兵とその家族が、かの国には一体どのくらいいるのだろう・・・。

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