『太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男-』・・・これでは心に響かない

けっきょく何を描きたかったのか、そもそも何が奇跡なのか、伝わる物があまりに弱くて残念。期待が大き過ぎたか・・・。

登場人物たちそれぞれの身の上や互いの係わり合いなど、見せ方を工夫すればもっと深みのあるいい話になりそうなのだが、なんでこうも盛り上がらないのだろう。竹野内豊演じる主人公大場大尉の周りに集まる人物たちは皆魅力的なのに、それがまったく生かされない。

総攻撃を前に自決する部下の少尉、ヤクザ者の一等兵とその仲間、再度合流する曹長や軍曹たち、大場と共に野営のリーダーとなる海軍陸戦隊の少尉、民間人のリーダー、二人の女性、幼い姉弟、捕虜収容所の男たち、大場を意識するアメリカ海兵隊の大尉等々。
ひとりひとりにせっかくいいドラマを用意しながら、その見せ方はあまりに歯切れが悪く中途半端な印象しか残らない。観ていて“ここで盛り上がるぞ”という予感が、ことごとく裏切られていく感じなのだ。会話や映像で見せるべき状況説明も不足がちで、ではそういう判断を観客に委ねるスタイルなのかと言うとそれも違う。

捕虜収容所から説得にやって来た男と、大場の元で野営する彼の子供たちとの絡みをなぜ見せてくれないのだろう。

正統派軍人タイプの大場と唐沢寿明演じるヤサグレ一等兵の関係が、激しい衝突も熱い結束もなく、なぜうやむやで曖昧なまま終わってしまうのだろう。

井上真央と中嶋朋子が演じたふたりの女性はけっきょくなんだったのだろう。前フリがあるのだから中嶋が捕虜になる場面は最低限必要だったのではないか。

山田孝之演じる曹長が徹底抗戦にこだわる思いを描かずして、なぜ最後のあの行動だけを不快に見せつけるのだろう。

サイパンに駐屯する米海兵隊司令の交代劇、前任司令のもったいぶった退任シーンは何の意味があったのだろう。

大場が見つけ、追撃してくるであろう敵に託し、無事に収容所に保護され、アメリカ人ナースに抱かれ、最後は井上真央に抱かれたあの赤ちゃんのエピで、なぜもっと泣かせてくれないのだろう。

大場が米軍からフォックスと恐れられたとするエピソードはあれだけしかないのか。
日本に思い入れがあるとは言えあの海兵隊大尉が敵である大場を尊敬するに至るには弱すぎはしないか。

実話であることは百も承知だが、その内容をそのまま順々に並べただけでは心に何も響かない。戦闘シーンの迫力で見せる作品ではなく、山中にこもった日本兵たちがいかに生き延びたかがポイントなのだから、やはり見せるべくは人間ドラマ。ドキュメンタリーに徹した作りではない以上、感情の激しい起伏を誘うような創作のセンスを発揮してほしかった。少なくとも私はそういう物を求め、期待していた。
そうでなければいっそのことドキュメンタリーとして描き切るか、だ。

モヤモヤと消化不良のままエンディングを迎えてしまったおかげで、軍歌を歌いながらの行進シーンで一人だけ音が外れていることにすらイラだってしまった。いいシーンなのに・・・。こういうの最終チェックの段階で巧く音声処理できないのかな、まったくもう。

いずれにしろタイトルに“奇跡”は的外れに思えてならない。


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