『岳 -ガク-』・・・よく頑張った、また山においでよ!

北アルプスの山岳救助ボランティア島崎三歩。遭難者に対する彼の温かい接し方が何よりもまず印象に残った。

不十分な装備や軽率な判断が原因による遭難の場合、助けに来た救助隊員に思いっきり叱りつけられる方がドラマとしては間違いなく絵になるし、それが定番だろう。ところが三歩は違うのだ。彼は怒らない。生存者だけでなく死者に対しても頑張ったことを褒め労い、生存者には「また山においでよ」と声を掛ける。

その間延びしたしゃべり方はどこか能天気でもあるのだが、かと言ってバカっぽいわけでもなく、いわゆる“天然”ともちょっと違う。要するにこれが島崎三歩という山男の“素”なのであろう。

おおらかで、ひたむきで、まっすぐで。

だからこそこのキャラがこうもかっこよく映るのだ。熱血でもクールでもないのにヒーローとしての存在感に溢れるこの青年を小栗旬が好演。彼、こんなに巧かったのね。

この三歩が物語の中心人物なのだが、事実上の主人公は新米隊員の椎名久美(長澤まさみ)である。救助経験や自らの遭難などを経て、ラストでは見事な活躍を見せる彼女の成長物語でもある本作。彼女の気取らない人間臭さがまたいい。強気な面もあれば泣き言を言ったりもする。冷静に自己分析のできる子なのに、無茶をしたり癇癪を起こしたりもする。このキャラクターがまた三歩同様に魅力的だった。
もちろんこれは長澤まさみの演技あってこそであるのは言うまでもない。

長澤というと私の場合比較対象が綾瀬はるかであり、なおかつ綾瀬のほうが格上という認識を持っていた。しかし本作での長澤の演技に触れた今、その認識は白紙に戻さざるを得ない。久美の魅力を余すところなく引き出した彼女の役者としての力量を再認識させられた思いである。


“フォール”という対処を初めて知った。遺体を降ろす手段は他にないのかとも思ったが、ああしないと現場に置き去りになってしまうのだとしたらやむを得ないのかもしれない。
これは知人から又聞いた話だが、遺体回収が困難な場合、遺族了解の上でその場で荼毘に付すケースもあるそうだ。それを考えれば、落とした先での回収が可能な時に限り許される、家族の元に送り届けてあげるための最後の手段として理解すべきなのだろう。


海保、自衛隊、消防庁などのレスキュー隊を題材にした作品がいくつか思い浮かぶが、それらと本作で決定的に違ったのが救助隊の編成だ。
県警の救助隊が山岳ボランティアと連携し、また民間のヘリを使って救助活動を行う。少なくともチームとして意識上の官民の隔たりはそこには一切なく、彼らは信頼と絆で固く強く結ばれている。互いに山のプロとして敬意を払いあうその姿勢は実に清々しく、また頼もしく感じた。
(もっとも救助される側にしてみれば飛んで来るのが警察・消防・自衛隊でなく民間ヘリだった場合、助かった後にもう一苦労・・・・・って、これは下世話な話)

なお“昴エアレスキュー”のモデルとなっているのは東邦航空とみていいだろう。登場したヘリAS350(JA9840)も現籍は東邦である。


親子ネタが三つと大サービス。他にも友情、先輩後輩、気さくなおばちゃん、健気な少年、天候悪化、多重遭難等々のありがちな要素がひと通り揃っていて、はっきり言ってしまえばストーリー自体に新鮮味はない。しかし老若男女すべての観客が、いつの間にか三歩に、そして小栗に、あるいは久美に長澤に惹かれてしまうはず。特に最後の三歩の笑顔は格別だ。冒頭の雄大な映像も素晴らしい。大きなスクリーンで味わいたい1本である。


女性救助隊員の成長を描いた作品としては2008年公開の『空へ-救いの翼 RESCUE WINGS-』が記憶に新しい。高山侑子が演じるヒロイン川島遥風は、空自救難ヘリの新人パイロット。天候急変や残燃料などに対する的確な判断を下しながら、救助隊員や要救助者を乗せ懸命に飛ぶ姿が印象的な作品である。興味のある方はこの機会にこちらもぜひ。


それにしても波岡一喜だ。
私が劇場鑑賞する映画において彼、ことごとく死ぬか死にかけるか入院しているのはなぜか?(笑)
波岡くん、どうかお大事にね。


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