『ももへの手紙』・・・父の想いと父への想い

興味はあったものの劇場鑑賞は躊躇していた本作を結局初日鑑賞。その感想を一言で表すならずばり、「観てよかった!」である。

ジブリの傑作『となりのトトロ』の持つあの情緒豊かなテイストや『千と千尋の神隠し』のおどろおどろ感、そして両作品共通のひたむきなヒロイン像を、亡き父と少女の絆の物語に当てはめて再現し直したかのような本作。久々に日本アニメらしい良質の作品に出会えた。

空から落ちてくる3つの水滴が、瀬戸内海を進むフェリーに乗る主人公ももの頭に当たるオープニング。次いで水滴は彼女の手にある折りたたまれた手紙を伝ってデッキの床に落下。この一連の描写に冒頭から引き込まれた。なんと巧みなツカミ。
ももの家までついてきた水滴は、古い書物に触れることでそこに描かれた妖怪の姿となってももの前に出現することになるのだが、この設定もまた想像力を掻き立てるウマイ仕掛けである。終盤に「そちらでは違う姿なのかもしれないけど」と、ももが亡き父に“話しかける”シーンがあることからもわかるように、ももに見える妖怪三人組(自称“見守り組”)の奇妙奇天烈な姿はあくまでこの世での仮の姿にすぎないのだ。

『トトロ』や『千と千尋』以外にも思い浮かぶアニメ作品は多い。いく子の顔の造形や表情は大友作品風、キャラに陰影の色分けがないのは細田作品と同じだ(そう思いつつ観ていたら『時をかける少女』のような“プリン食べられちゃった事件”発生!)。
古い言い伝え、父とのケンカに母の手鏡。これは『ホッタラケの島 遥と魔法の鏡』を思わせるし、ももと同様に妖怪の姿が見える少女海美がマメにちょっかいを出す様子は、『河童のクゥと夏休み』での瞳とクゥのよう。

・・・こうしてみるとどこかで観たような聞いたようなシーン・設定の寄せ集め的印象も否めないわけだが、そんな既視感がむしろ心地よく感じられるから不思議だ。いい話は何度聞いてもいいように、日本アニメのよいところが凝縮されていることが本作の魅力の一つとなっているのかもしれない。


嵐の中、開通前の汐島大橋を疾走する郵便バイクのシーンは圧巻。転倒したバイクの傍らで天を仰ぎ“空”の父に向かって叫ぶもも。

「お母さんを助けて!」

本作中屈指の名場面であるが、真のクライマックスはさらにその先に用意されている。

「ももへ」

書きかけだった父からの手紙。その続きが島の祭に合わせてもものもとに届く。その簡素にして温かな一文を読み上げるももに母いく子が声をかける。

「そのぶっきらぼうさは間違いなくお父さんね」

ももの主張する妖怪話に耳を貸さなかったいく子がすべてを理解する瞬間、ひび割れかけていた父と子、母と子の絆の再生が完結するのだ。


心に残る小さな棘に苦しむ少女を優しく迎える島の人々と愉快な妖怪たち。彼らと接する日々の中で少しずつ成長していく少女にやがて訪れる感動の奇跡。
亡き父との絆として“空”から降ってきた3滴のしずくから始まる少女の不思議な体験を、瀬戸内の美しい夏の風景の中で描く笑いあり涙ありのとにかく素敵な物語である。

原由子の優しさあふれるたおやかなメロディと歌声が、観後に残るさわやかな余韻とともにいつまでも胸に響き続けた。



余談:プロダクションI.G作品はこの後も私が楽しみにしている作品が2本、公開を控えている。待ち遠しいなあ~!

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