『BRAVE HEARTS 海猿』・・・ここにも最後の砦があった

見応えあり! よかった!
熱い心と冷静な判断力を併せ持つ海保特救隊の物語を存分に堪能した。レスキュー隊を題材とした作品はいくつか知られた物があり、それらは私の大好きなジャンルでもあるわけだが、これまでの海猿シリーズも含めこのジャンルにおいてこれほど興奮と感動を味わった作品は過去にない。もう断言。邦画のVFXの進歩も実感できたし大満足の一本であった。

前作では鹿児島の第十管区の機動救難士だった仙崎だが、本作では特救隊員として吉岡とともに第三管区に異動。また前作で仙崎と行動を共にした第七管区の服部も第五管区に異動となっている。もっともこうした過去作品からの流れは知らなくても問題なく楽しめるはず。
新キャストとしては、吉岡の恋人美香役に仲里依紗、仙崎と吉岡の上司、嶋副隊長役に伊原剛志が加わったことで、仙崎・吉岡コンビ周辺の人間ドラマもさらに面白くなった。特に美香は劇中で遭難する事故機にCAとして搭乗していて、これが救難シーンの見せ場の一つにつながっていくことになる。


ジャンボ機が着水に至るまでの描写も手抜きがない。
航空パニック物ではないので事故の原因や背景などは語られずそのあたりは非常に惜しいのだが、何の前触れもなく1番、2番エンジンが相次いで出火爆発、2番は脱落し機体側面に激突、油圧配管を傷付けるという一連の映像は迫力もありマジで肝を冷やした。
コックピットの警報音やパイロットの会話もリアルだ。エンジン異常とハイドロプレッシャー低下を必死で伝える副操縦士に対し、「ディセントだっ!」と叫ぶ村松機長の判断の速さ。
メインギアが一本出ていないことを外部から知らされてのゴーアラウンドもお見事。実際に2発死んだ状態のジャンボが瞬時にこれだけのパワーを出せるかどうかはともかく、おそらくほとんど反応のないであろう操縦系統と格闘しながら再び巨人機を空中に舞い上がらせるコックピットクルーの奮闘ぶりに早くも感動の私。

キャビンで乗客のパニックを懸命に抑えようとするCAたちの表情も絶妙だ。毅然とした態度の陰にちらりと見せる不安の面持ち。そんな中、着席後の美香が、着水後に自分のすべきことを繰り返し暗唱する姿が印象に残った。1985年の夏に起きたJAL123便墜落事故では乗客たちの遺書が注目を浴びたが、CAの一人が揺れる機内で書き残したメモも墜落現場で見つかっている。そこに書かれていたのは不時着後の乗客への避難誘導の要点だ。本作での美香のプロ意識に、亡くなったそのCAのプロ意識が思い出され・・・ううう、涙。

海上着水後に民間船が救助のために集まってくるシチュエーションは、劇中でも話題になる2009年1月にNYで起きたUSエアウェイズ機の事故にヒントを得たものだろう。また、警察や消防が海保と連携を取る様子や、周辺の港に赤十字や医師たちが続々と集結する描写については、これはもうあの東日本大震災を思い起こさずにはいられない。
乗客乗員全員が助かったいわゆる“ハドソン川の奇跡”と、未曽有の災害の中で我々日本人が見せた一体感。こうした出来事が下敷きとなっているからこそ、フィクションながら本作はリアルな感動を呼ぶのだと思う。
他者を救おうとする思い、我の危険を顧みず、報酬を求めず動き出す人間の本能に訴えるのである。そしてこれこそが、海猿シリーズの根底にあるテーマであり、仙崎大輔という海上保安官の信念なのだ。

海猿シリーズでは前作レガリア事故のエピソードが好きだったが、本作は間違いなく前作を超えている。仙崎だけを追うようなストーリーでないこと、彼や吉岡や服部を立てながらも、機内で奮闘するクルーを始め事故に対処すべく結集するたくさんの人たちについて時間を割いて描いていることをとにかく評価したい。

私はこの手の作品の終わり方として、後日譚的なエピローグなどなく、たとえば『ダイハード』シリーズのように事件事故現場でスパッと一件落着するパターンが基本は好みだ。その観点で言わせてもらうと吉岡救出エピ以降が少々冗長に感じたのも事実である。
仮に後日譚を入れるのであれば、仙崎と村松機長のその後、そして美香と乗客の少年のその後はぜひとも見せるべきだったと思うのだが、いかがか。まあ、それこそ好みの問題かな。


最後の砦。
航空自衛隊救難隊の活躍を描いた『空へ-救いの翼 RESCUE WINGS-』でこの表現を知った。そして今日、もう一つ“最後の砦”があることを知った。海上保安庁特殊救難隊。海難救助の最後の砦。

いつどこでどんな事故や災害に見舞われるか全くわからない日常を生きる我々にとって、彼らの存在の何と頼もしいことか。彼らが活躍するような最悪の事態はもちろんないに越したことはない。だが事故は起きるのだ。そんな“もしも”に備えて日々訓練に励み心身を鍛え上げている海保の、そして警察、消防、自衛隊の各レスキュー隊員の皆さんに改めて敬意を表したいと心から思った。


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